我々人間の主観的な体験は、良い方にも悪い方にも大きく変化し得る。それに大きく関わるのが『期待』である。観た映画を面白いと感じるか。同じ場所を同じように旅しても、特に何も感じなかったり「こんなに楽しいことは二度とない」と感じるか。事前の期待が大きいか小さいかが、それをかなりの割合で左右する。
2001年、ボルドー大学のワイン研究者フレデリ・ブロシェがフランス人ソムリエを被験者としてある実験を行った。この実験では値段的に高くもなく安くもない中程度のボルドーワインを使った。
それを本来とは違う2種類のボトルに入れて被験者のソムリエに鑑定してもらった(ボトルの一方はグラン・クリュという高価なワインのもの。もう一方は安価なテーブルワイン)
中身は同じなのだが、被験者のソムリエ達はグラン・クリュのボトルから注がれたワインを圧倒的に高く評価し、「素晴らしい。バランスが取れていて香りもいい」などと口々に褒めた。反対にテーブルワインのボトルから注がれたワインには「コクがないし、バランスも悪い。味が平板で飲んでもあまり印象に残らない」などと低い評価ばかり聞かれた。
残念ながら、人間が味を感じるメカニズムと期待とは切り離すことが出来ない。それを逆手に取ってラベルやボトルを偽装するといった事件も多発している。また、ワインの品評会では審査員にラベルやボトルを一切見せないよう念入りに準備を行う。それでもやはり限界はある。結局最終的には「人それぞれ」なのかもしれない。
その23へ続く
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