ギャンブル依存症について研究を行っている神経薬理学者、マーティン・ザックは「ドーパミンは人間にやる気を起こさせる物質だが、そのメカニズムは決して単純ではない。これには『意味』というものが大きく関わってくる」と言っている。
ドーパミンには、人それぞれに平常時の濃度、つまり基礎濃度というものがある。何らかの種類の報酬が得られそうな期待があると、そのレベルを上回ってドーパミンの量は増える。つまり、基礎濃度が低い人は、少し濃度が上がっただけでも十分に高揚する。しかし、ギャンブル依存症者は脳の報酬系によって快感を得ているうちにドーパミンの基礎濃度が上がる。そのため濃度がかなり高くならなければ高揚感が得られなくなってしまう。
またギャンブル依存症者の脳は、長期的な目標を達成することで得られる報酬に価値を見出せなくなる。子供の進学や将来のバカンスのための貯金などが出来ない。未来に得られる報酬では前頭葉のスイッチが入らず、期待感が生じないからだ。
普通の人であれば、大きなリスクを冒すと全てを失う危険を強く感じるものだが、ギャンブル依存症者はその危険を知らせる信号も出なくなってしまう。ギャンブル依存症者はギャンブルを続けることでしか、高揚感を得られない。しかも、ドーパミンの基礎濃度が上がると賭け金の額を上げなくては物足りなくなる。そして同じ高揚感を味わうためには、徐々に賭け金を増やしていくしかない。
それが行き着くと、ギャンブルで得られるかもしれないお金ではなく、ギャンブルをすることそのものが報酬となる。
薬物やアルコールの依存症者は薬物やアルコールを摂取できるという予感だけで摂取前から喜びを感じる。ギャンブル依存症者の感じる喜びもそれに似ている。
ギャンブルで実際に大当たりが出なくても、出そうだという予感だけで喜びを感じることが出来る。
その22へ続く
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