予測と結果
2007年、心理学者のロブ・グレイはスポーツ選手の技能と予測能力の関係を調べる実験を行った。野球の経験者と未経験者を被験者とし「バーチャルバッティング」をしてもらうというものだ。
研究室にホームベースを置き、その脇に立ってバッティングを行うが、打つのは本物の野球のボールではなかった。大きなスクリーンにコンピューターグラフィックスのダイヤモンドが映し出され、その中のCGのピッチャーが投げる「仮想のボール」を打つ。
ボールの高さやスピードは、コンピューターが一球一球ランダムに変える。バットの先にはモーションセンサーが取り付けられていて、スイングの際のバットの動きは全て三次元的に記録された。
実験を開始してしばらくは、バッティングの結果に応じたフィードバック情報がバッターに即座に提供された。例えば、空振りをした時には仮想の審判が「ストライク」と叫び、ヒットを打つと仮想の観客が大喜びする。また、アナウンサーが実況をしてヒットなのかファールなのかホームランなのかも伝えてくれる。
だが、被験者が何十回かバッティングをするとその後はフィードバック情報が即座には提供されなくなる。自分のバッティングの結果がどうなったかは、打った球がどこに落ちるかをバッター自身がコンピューターのカーソルで予測しなければ知らされない。予測を入力するとボールが実際に落ちた位置が知らされ、審判や観衆、アナウンサーも反応する。
その結果、野球経験者は未経験者に較べてバッティングの結果が良いだけでなく、予測の精度も高かった。また、経験者の場合、自分のスイングそのものに注目するよりもスイングの結果に注目している方が結果が良いということも分かった。さらにバッティングの調子が良い時には、調子が悪い時よりもボールの落ちる位置の予測がより正確だということも分かった。
この結果をみて「調子が悪くなると、スイングを修正しなければと思うだろうが、その結果スイングそのものに気を取られ過ぎ、予測に注意が向かなくなる。関心が内向きになるほど結果は悪くなってしまう」とグレイは話した。
その6へ続く
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