予測能力と緊張
人には次に何が起きるかを予測する力、つまり予測能力がある。それは長年の経験や実践、練習などによって培われる。この能力は自動的に働き、求められるレベルが上がるほどその重要度は増す。
その予測能力が失われるひとつの要因に緊張がある。予測能力は、重要な半面、非常に脆く「うまくいかないのでは」という不安に頭が支配されると、すぐに働かなくなる。緊張が不安を生み、不安が人から予測能力を奪ってしまう。
PKの魔力
サッカーのペナルティキック(PK)は、ゴールまで約11メートルの決められた位置からシュートを打ちゴールを狙うという非常にシンプルなプレーだ。守る側はキーパー1人だけなので、その成功率は国際レベルの試合では約85%となっている。
つまり「誰が失敗するか」というプレッシャーの中で選手は蹴らなければならない。
期待と不安
ノルウェースポーツ科学学校のスポーツ心理学者、ゲイル・ジョルテは、一流のアスリートが失敗する原因を探りたいと考え、ありとあらゆるPKの失敗を分析した。
ジョルテは「私が興味を持っているのは、PKそのものではなくアスリート達のプレッシャーへの対処の仕方だ。PKに注目するのは、それが最もよく分かる場面だからだ。選手がボールを蹴って以降のことには全く興味がない。重要な事は、全てその前に起きている」と語り、”PK戦の心理学モデル”を構築した。
何年にも渡り、主要な国際試合の何百というPKを見て、選手たちの視線・歩き方・歩く時間など事細かに観察し、PKを失敗する時に共通する特徴、「失敗の予兆」とパターンを発見した。
いくつか例を挙げると
・大事な試合であればあるほど成功率は下がる
・1本目と2本目のPKはその後のものより成功率が高い
・FWの選手はMFよりも、MFの選手はDFよりも成功率が高い
などがある。
だが最も特徴的なのはPKを失敗する選手は「表情と行動」に不安が出る傾向があることが分かった。
まずPKを失敗する選手は蹴る前に、不安に覆われたような表情をしている。
行動としては
・審判の笛を聞いてから早くボールを蹴る
・ボールを蹴った後にすぐゴールに背を向ける
の2つが挙げられ、これはどちらも「回避」行動にあたる。
不安やプレッシャーから逃れるため、回避の行動をとれば少しはそれらの影響は弱まるが、一方で集中力は奪われる。結果として失敗する可能性は高くなる。
またその選手がどういった「期待」をかけられているかも成功率に関係する。
その2へ続く
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